特許紛争案件審理の司法解釈及び実践における運用
——最高人民法院の特許権侵害紛争事件の審理に関する最新の司法解釈―
中科専利商標代理有限責任公司
中国弁理士 汪恵民
中国弁理士 張立岩
中国最高人民法院(日本の最高裁判所に相当する)審判委員会は2009年12月21日に第1480回会議にて「最高人民法院の特許権侵害紛争事件の審理に適用される法律に関する若干の問題への解釈」を通過させて公布し、2010年1月1日より施行することとした。
中国では、法律条文の理解が一致していないとか、法律の正確な実施に影響がある場合に、法律の解釈や法令の追加等の措置が採られる。法律や法令の具体的適用に係る問題について、それが法院(日本の裁判所に相当)の審理業務に係るものについては最高人民法院(日本の最高裁判所に相当)が、それが検察院(日本の検察庁に相当)の検察業務に係るものについては最高人民検察院(日本の最高検察庁に相当)がそれぞれ解釈を行い、これら最高人民法院及び最高人民検察院の解釈に原則的に多岐解釈(「いろいろ解釈できる」の意味)の可能性が存在する場合には、全国人民代表大会常務委員会に報告し、そこで解釈又は決定をしてもらう、というシステムを採用している(根拠:「全国人民代表大会常務委員会の法律解釈工作を強化する決議」-1981年6月10日第5回全国人民代表大会常務委員会第19回会議通過)。この解釈は「司法解釈」と呼ばれ、それは法律と同等の効力を有するものである。また、司法解釈は法律の規定を具体的に詳細化し、的確に運用できるようにした、司法審理の判定実践における裁判の根拠でもある。したがって、特許権が侵害される問題があった際に原告だけではなく被告も関係する法律及び法令以外に司法解釈における具体的な規定を充分に注意しなければならない。
中国で特許制度が施行された1985年から、2009年までの司法審理の実践において、特許権侵害紛争案件の処理において司法解釈は重要な役割を果たした。関連の司法解釈のうち、下記のものは特に重要である。
1.「提訴前の特許権侵害行為の差止めに適用する法律に関する若干の規定」(司法解釈(2001)20号 2001年7月1日より施行、以下に「最高人民法院の提訴前禁令」と称する)
2.「特許紛争事件の審理に適用される法律の問題に関する若干の規定」(司法解釈(2001)21号 2001年7月1日より施行、以下に「最高人民法院の審理規定」と称する)。
上述の最高人民法院の提訴前禁令と審理規定の中の確定した「証拠保全」規定及び「法定賠償」の規定が、司法実践により中国の国家事情に合うことが証明されたので、これらの規定は第3回改正の特許法に補充された。
また、最高人民法院の規定をよりよく運用できるように、北京市高級人民法院は司法実践において下級人民法院が参考できる「北京市高級人民法院?“特許権侵害判定の若干問題の意見(試行)”を執行する通知」(2001年9月29日より施行、以下に「北京市高級人民法院の執行通知」と称する)を提出した。
上述の北京市高級人民法院の執行通知は最高人民法院の審理規定に対応するものであり、審理において運用に都合のよい、下記の5つ内容を含む解釈を提出した。
1. 発明、実用新案特許権の保護範囲の確定
2. 発明、実用新案特許権の侵害判定
3. 意匠特許権の侵害判定
4. その他の特許権の侵害行為の判定
5. 特許権侵害の抗弁
上述の第1項の発明、実用新案特許権の保護範囲の確定において、保護範囲確定の解釈の原則は折中解釈の原則であることを明確にし、具体的に保護範囲確定の解釈方法を与えた。
上述の第2項の発明、実用新案特許権の侵害判定において、判定の原則と方法を明確にし、下記の内容を含めた。
(1) 権利侵害判定のための比較
(2) オールエレメントルール(全体包含原則)の適用
(3) 均等論の原則の適用
(4) 禁反言の原則の適用
(5) 余計指定(不完全利用)の原則の適用
上述の第3項の意匠特許権の侵害判定において、意匠特許の保護範囲の確定において意匠の簡単な説明は当該意匠特許の保護範囲の理解に用いられる観点を明確にした。この観点が第3回改正法において採択され、特許法第59条第2項に補充された。即ち、「簡単な説明は、図面又は写真に示されたその製品の意匠特許に対する解釈に用いることができる」ことを規定した。
上述の第5項の特許権侵害の抗弁において、抗弁理由としての方法を明らかにし、下記の内容を含めた。
(1) 権利濫用の抗弁
(2) 非侵害の抗弁
(3) 侵害をみなされない旨の抗弁
(4) 従来技術の抗弁
(5) 契約に基づく実施の抗弁
(6) 訴訟時効の抗弁
従来技術の抗弁は、特許権侵害訴訟において被告が弁明する際に一般に採用する一つの方法である。第3回改正法にこの方法を新たに追加の抗弁条項として補充し、法律基本として明確にした。
最高人民法院は、司法解釈が立法主旨に一致することを保障し、中国の国家事情に合せ、イノベーションを奨励するために、(1)法による解釈の原則;(2)利害平衡の原則;(3)的確な運用の原則を貫徹している。また、特許審判実践における基本的、普遍的な法律適用の問題を考慮し、数年来熟している特許審理の経験則を明確にし、纏めて新しく「特許侵害紛争案件の審理に法律を適用する問題に関する若干の問題の解釈」を提出した。
当該司法解釈は全部で20条あり、今現在特許権侵害審理における主な法律
適用問題について、(1)発明、実用新案特許権の保護範囲の確定及び権利侵害判定の原則;(2)意匠特許権の侵害判定の原則;(3)従来技術の抗弁及び先使用権の適用;(4)非侵害確認訴訟の受理などを含む。最高人民法院より出された司法解釈は中国の判定実践の裁判根拠であるため、この新しい司法解釈が2010年1月1日から施行された後、中国の司法実践至る審査実践には多大な影響を起こすであろう。本文はこの司法解釈と旧司法解釈との異なるところを分析し、日本の特許権者が中国の司法審理実践の変化を理解し、積極的な対応をすることができれば幸いである。
一、機能的クレームの解釈に関する規定
中国特許法第59条第1項に「発明又は実用新案特許権の保護範囲は、その権利請求の範囲の内容を基準とし、明細書及び図面は権利請求の内容の解釈に用いることができる。」を規定している。即ち、折中解釈の原則によって「クレームの記載に基づき、本分野の一般技術者(当業者)が明細書及び図面などを閲覧することによって理解できるクレームの内容を考慮して、特許法第59条第1項に規定されたクレームの内容を確定しなければならない」(「最高人民法院の特許権侵害紛争事件の審理に適用される法律に関する若干の問題への解釈」の第2条、以下に、「最高人民法院の問題への解釈」と称する)を規定した。また、「人民法院はクレームに対して、明細書、図面、権利請求の範囲における関連のクレーム、特許審査経過書類を活用して解釈することができる。明細書がクレームの用語に対して特に定義されている場合は、その定義に従う。上記方法を用いてもクレーム用語の意義を確定できない場合、辞典などの書籍、教科書などの公知文献及び当業者が理解する通常の意義を勘案して解釈することができる」(第3条)と規定した。上記の規定は以前の判定実践の裁判原則と同等であって、実質的に区別がない。中国特許法及び司法解釈には、クレームに機能的構成要件を含む場合、その機能的クレームの保護範囲をどのように解釈するかについて明確に規定していないので、特許法の規定から見れば、中国では比較的広い範囲の機能的構成要件を含むクレームの保護が認められるように見える。
中国の特許審査の観点から見れば、特許出願の請求の範囲は特許法第26条第4項に規定を満たさなければならない。即ち、「請求の範囲は、明細書に基づき、明瞭、簡潔に特許の保護を求める範囲を限定しなければならない。」。そのうちの「請求の範囲は、明細書に基づき」とは、クレームは明細書に裏付けられなければならないことを指す。クレームが明細書に裏付けられるための条件として審査指南第二部分第二章3.2.1節にはさらに以下の通り規定されている。
一般的には、物のクレームに対しては、できるだけ機能又は効果的構成要件で発明を特定することを避けなければならない。技術的構成を構造的要件で特定することはできない場合又は技術的構成が構造的要件で特定されるよりも機能又は効果的要件で限定されるほうが適当であり、且つその機能又は効果的要件が明細書に規定された試験又は操作或いは当該技術分野の慣用手法から直接間違いなく検証できる場合にだけ、機能又は効果的要件で発明を限定することが認められる。
クレームに含まれる機能的限定の構成要件は、この機能が実現される全ての実施方式を含むと理解すべきである。機能的限定が含まれるクレームについては、その機能的限定が明細書に裏付けられるかどうかに対して審査しなければならない。もし、クレームに限定された機能が明細書における実施形態に記載された特定な方式で完成したものであり且つ所属する技術分野の当業者が明細書に記載されていないその他の代替方法を採用して機能を達成できることが明らかでない場合、或いは所属する技術分野の当業者が当該機能的限定を疑う理由があり、一つ或いは幾つかの方式で発明又は実用新案が解決しようとする技術課題を解決できず、かつ同様な技術効果も達成できない場合は、クレームの中に上述のその他の代替方法或いは発明又は実用新案が解決しようとする技術課題を解決することができない方法を含む機能的限定を採用してはならない。
クレームが明細書に裏付けられているかどうかを判断するときには、全明細書の内容を考慮しなければならず具体的実施方式の内容だけに限らない。明細書のその他の部分にも具体的実施方式又は実施形態に関する内容を記載し、明細書の全ての内容からクレームの概括(上位概念化)は適当であると判断できれば、クレームは明細書に裏付けられていると考える。
中国の審査実践において、審査官は特許法第26条第4項に規定された「特許請求の範囲は、明細書に基づかなければならない」ことについて厳しく要求している。機能的限定に属する可能性のある構成要件に対しては、明細書における具体的実施方式に記載された実施形態と同等又は均等な程度に全て補正することが要求される。日本を含む多くの外国出願人がこのような審査方式に対して困惑を感じており、中国で出願した機能的クレームがファミリパテントの日本、ヨーロッパ、アメリカで権利付与可能であるのに、中国でどうして認められないかの疑問を持ち出した。
筆者は日本及びアメリカなどの司法実践は中国の司法実践と異なると考えている。日本及びアメリカなどの国では特許審査において、機能的構成要件について明細書の記載に基づいて実施できれば、機能的構成要件から構造的構成要件に補正する必要がなく、特許権が付与される。権利侵害紛争処理の審判実践において、通常、機能的構成要件と明細書における実施形態及びその均等の実施形態を参酌して侵害を構成するかどうかを判断するので、これによって、特許審査は比較的し易くなると思われる。
「最高人民法院の問題への解釈」の中に、機能的構成要件に対する解釈について全く新しい規定を提出した。即ち、第4条では「クレームの中に機能又は効果で記述された構成要件に対しては、人民法院は明細書と図面の記述する当該機能或いは効果の具体的実施形態及びその均等の実施形態を考慮して、当該構成要件の内容を確定しなければならない」と規定している。上記の規定により多くの先進国家の司法審判実践と次第に一致していくであろうと思う。したがって、この第4条は中国の判定実践において大きな影響を及ぼすだけでなく、中国の審査実践にも一定の影響を与えるであろう。これから、審判実践において具体的にどのようにこの規定が運用されるか注目される。
二、余計指定原則の廃止
余計指定原則とは、特許権利侵害判定において、独立クレームを解釈するとき及び特許権保護範囲を確定するときに独立クレームに記載された明らかな付加構成要件(即ち、余計な構成要件)を省略し独立クレームに記載された必要な構成要件のみに基づいて特許権保護範囲を確定し、被提訴物件(製品又は方法)が特許権保護範囲に属するか否かを判断する原則を指す(北京市高級人民法院の執行通知第47条)。
余計指定の原則は、出願人が請求の範囲を書くときにミスが生じたことで損害をもたらすことをできる限り免れるように、立法が特許権利者に与える寛容の一つである。このようなミスが発明創造のそのものの進歩性と関係なく、権利侵害判定においてこのような余計指定の原則を排除しても社会公衆の利益に対して影響を与えず、特許権利者に合理的な保護を提供することができる。
余計指定の原則は多くの国の司法実践に採用されていた。この原則は「最高人民法院の問題への解釈」が施行される前に中国の司法実践にも適用されていた。当然のことだが、社会公衆利益に損害をもたらすことを避けるために余計指定の原則の認定は司法実践において非常に慎重にかつ厳格に取り扱われてきた。
しかし、最高人民法院は下記のことを考慮して、中国の司法実践において余計指定の原則の適用を廃止した。即ち、クレームの役割は特許権の保護範囲の確定である。つまり、発明又は実用新案を構成する技術的構成が全ての構成要件を含むことを公衆に表明することにより、公衆にはどのような行為が特許権の侵害にならないかが明らかになる。クレームに記載された全ての構成要件を全面的に、充分に尊重すれば、社会公衆がクレームの内容について変動を予測できず、どうしたらよいか分からないことは生じない。これによって、法律的権利の安定を保障することができる((最高人民法院知的財産権廷責任者より「特許権侵害紛争事件の審理に法律を適用する若干の問題に関する解釈」について、記者の質問に対する回答)からの抜粋)。
「最高人民法院の問題への解釈」の第7条第1項に「人民法院は、提訴された物件に係る技術的構成が特許権の保護範囲に入るかどうかを判定する時、特許権者が主張するクレームに記載される全ての構成要件を審理しなければならない」と規定している。上記の「クレームに記載される全ての構成要件」の意味は実質的に余計指定の原則を否定したものである。
中国の司法実践において余計指定原則の適用を廃止し、中国の審査実践においてクレームに対する補正が厳格的に制限されているので、特許出願人が出願する際にクレームの書き方をより注意しなければならないことが要求されている。
三、部品の権利侵害行為について
中国の審判実践において、「最高人民法院の問題への解釈」が初めて部品の権利侵害行為及び賠償確認の原則と方法について明確に規定された。
「最高人民法院の問題への解釈」の第12条に、発明又は実用新案特許権侵害した製品が部品である場合に他の製品の部品を製造する場合、人民法院は特許法??第11条に規定された使用行為に属することを認定しなければならない。当該他の製品を販売する場合、人民法院は特許法第11条に規定された販売行為に属することを認定しなければならない。
意匠特許権を侵害した製品が部品である場合に、別の製品の部品を製造かつ販売する場合、人民法院は特許法第11条に規定された販売行為に属することを認定しなければならない。但し、意匠特許製品が当該別の製品において技術的機能のみを有する場合は除く。
上記の前記2項の規定の場合に対して、被疑権利侵害者の間に分担を決めて協力し合うことがあった場合、人民法院は共同権利侵害になると認定しなければならない。
「最高人民法院の問題への解釈」の第13条に、「特許方法によって得られた一次的(オリジナル)製品に対して、人民法院は特許法第11条に定めた特許方法によって直接得られた製品であると認定しなければならない」と規定した。
上記の一次的製品をさらに加工処理して、後続製品が得られた行為に対して、人民法院は特許法第11条に規定された特許方法によって直接得られた製品に属すると認定しなければならない。
「最高人民法院の問題への解釈」の第16条第2項、3項は下記に示す(第1項を省略)。
第2項
発明、実用新案特許権を侵害している製品が他の製品の部品である場合、人民法院は、当該部品自身の価値及びその部品が完成品の利益における役割などの要因に基づき合理的に賠償額を確定しなければならない。
第3項
意匠特許権を侵害する製品が包装物である場合、人民法院は、包装物自身の価値及び包装された製品の利益における役割などの要因に基づき合理的に賠償額を確定しなければならない。
部品に対する侵害行為及び賠償の確定の規定について、「最高人民法院知的財産権廷の責任者より「特許権侵害紛争事件の審理に法律を適用する若干の問題に関する解釈」について、記者の質問に対する回答に対して下記の説明を行った。
「特許法第70条の規定に基づくと、特許権侵害製品の使用者はある条件で賠償責任を負わなくてもよいが、製造者は賠償責任を免責されない。したがって、製造と使用とを区別するのは法律上では一定の意味がある。特許権侵害製品を別の製品の部品として使用する場合に対して、司法実践において二つの観点がある。一つは「製造」、もう一つは「使用」である。被疑権利侵害者が別の製品を製造する場合、特許権侵害製品自身は部品に対する製造行為がない。そのため、司法解釈第12条ではそれを使用行為と定義した。意匠権侵害行為は使用行為を含まないので、意匠特許権侵害製品を部品とした、他の製品を製造かつ販売する場合は販売行為の範囲に入れた。しかし、意匠特許権は製品の意匠を保護するので、部品が最終製品の正常の使用状態で技術機能として働き、視覚的効果が生じなければ、上記の行為は販売と認められない。これは司法解釈第11条第1項の規定に相応している。第3項は前1と2項の但し書きである。前1と2項はこれを的確に規定し、特許侵害製品の製造者と当該別の製品の製造者の間は正常の売買関係とした。両者が分担協力であれば、共同で製造を実施した行為に属する。民法通則司法解釈??第148条第1項に基づき、権利侵害の共同責任を追及する。」と説明している。
司法実践において、部品が一つの製品であると、それが権利侵害になっているかどうかを判断するのは比較的に容易であり、且つ権利侵害の部品を用いて別の製品を製造する行為は侵害行為に属することにも論争がない。しかし、上記の侵害行為の賠償金額が合理的であるかどうかについて確定するときに、司法実践において常に各要因により正確的な判断に影響を与える。最高人民法院は部品に対する侵害行為及び賠償金額の確定に関する規定は中国審判実践にさらに明確な根拠を提供した。
四、警告書と権利の非侵害確認訴訟
中国訴訟制度においては、被疑侵害製品が市場に進入することを食い止めるように、又は侵害行為が発生しないように、特許権利者が被疑侵害者へ警告書を出すことができる。特許権者が出し警告書によりもたらされた結果について法律責任を負わない場合、被疑侵害者が警告書を受け取った後に実質的な影響がないと認識するとき、黙ってほうっておく対策を採用する場合が多い。しかし、警告書により被疑侵害者の生産又は経営に対して影響を受ける場合、被疑侵害者が、受動的な立場になる可能性があり、権利者が訴訟を提起するかどうかについて予測できないし、また、自分が侵害になっているかどうかを確定できない状態になる。この場合は、自発的に自分の権利と利益を守るために、「最高人民法院?蘇州龍宝生物工程実業公司と蘇州郎力福保健品有限公司より非侵害の確認訴訟の特許権紛争案件に関する意見付きの返答((2001)民三他字第4号)」の主旨によって、警告書を受け取った被疑侵害者は人民法院に訴訟を提起し、「特許権非侵害の確認」を請求することができる。上記の特許権紛争案件を対応するために、最高人民法院は初めて「特許権の非侵害の確認制度」を司法解釈の中に明確な規定を置いた。当該規定における第18条に「権利者は他人に対して権利権侵害に関する警告を発し、警告を受けた者又は利害関係人が書面を以って権利者に訴権の行使を催告した場合、権利者は当該書面による催告を受取ってから一ヵ月以内に或いは当該書面の催告を発送した日から二ヶ月以内に、警告の撤回もせず、訴訟の提起もしない場合、被警告人又は利害関係人が、それの行為について、特許権の非侵害確認訴訟を提起した場合、人民法院は受理しなければならない」を規定している。
上記の規定に基づいて、被警告者又は利害関係者が人民法院に特許権非侵害確認を請求する前提条件は下記のとおりである。
1.被警告者の義務:警告者に提訴催促の手紙を出すこと;
2.訴訟の期限:権利者が当該書面催促を受け取った日から1ヶ月以内に、又は該書面催促を出してから2ヶ月以内;
3.訴訟前提:警告者が警告を取り下げないし訴訟も提起しない;
4.訴訟内容:自分の行為が特許権を侵害していないことの確認を請求する;
5.民事訴訟法3?第108条の規定を満たす(起訴条件)。
最高人民法院は上記の「特許権の非侵害確認」の司法解釈の規定を作成したため、特許権者は、自分が受動的な立場にならないように、被疑侵害者へ警告する前に出そうとする前に警告後の発生可能な結果を充分に考えなければならず、また、権利侵害訴訟を提起する準備をしなければならない。
以上、2010年1月1日から施行される最高人民法院の「特許侵害紛争事件の審理に適用される法律に関する若干の問題への解釈」の最新の司法解釈について、特に今まで中国の法律及び司法解釈で明文化されていない条文について、中国の現在の運用状況と比較しつつ解説させていただきました。適当でないところ、お気づきの点があれば、ご指摘いただきますようお願い申し上げます。
注)文章の中に、特許法と書かせたが、中国語では「専利法」と称する。
専利とは、発明特許、実用新案、意匠の包括した語である。
●関連する「最高人民法院の特許権侵害紛争事件の審理に適用される法律に関する若干への問題への解釈(法釈[2009]21号)」の全文翻訳は下記のとおりである。
最高人民法院の特許権侵害紛争事件の審理に適用される法律に関する
若干の問題への解釈
(法釈[2009]21号)
「最高人民法院の特許権侵害紛争事件の審理に適用される法律に関する若干の問題への解釈」は2009年12月21日最高人民法院審判委員会第1480次会議を通過したので、ここに公布し2010年1月1日より施行する。
二00九年十二月二十八日
特許権侵害事件を適切に審理するため、「中華人民共和国特許法」、「中華人民共和国民事訴訟法」等の関連法律の規定に基づき、裁判実務を踏まえて、本解釈を制定する。
第1条 人民法院は、権利者の主張するクレームに基づき、特許法第59条第1項の規定に従って特許権の保護範囲を確定しなければならない。権利者が一審法廷で弁論終了前に主張するクレームを変更する場合、人民法院はこれを認めなければならない。
権利者が従属クレームを以って特許権の保護範囲を確定することを主張した場合、人民法院は当該従属クレームに記載の付加技術的特徴及びその引用するクレームに記載の構成要件を以って特許権の保護範囲を確定しなければならない。
第2条 人民法院はクレームの記載に基づき、本分野の一般技術者(当業者)が明細書及び図面などを閲覧することによって理解できるクレームの内容を考慮して、特許法第59条第1項に規定されたクレームの内容を確定しなければならない。
第3条 人民法院はクレームに対して、明細書、図面、権利請求の範囲における関連のクレーム、特許審査経過書類を活用して解釈することができる。明細書がクレームの用語に対して特に定義されている場合は、その定義に従う。
上記方法を用いてもクレーム用語の意義を確定できない場合、辞典などの書籍、教科書などの公知文献及び当業者が理解する通常の意義を勘案して解釈することができる。
第4条 クレームの中に機能又は効果で記述された構成要件に対しては、人民法院は明細書と図面の記述する当該機能或いは効果の具体的実施形態及びその均等の実施形態と参酌して、当該構成要件の内容を確定しなければならない。
第5条 明細書又は図面のみに記載されており、クレームに記載されていない技術的構成について、権利者が特許権侵害訴訟において、その特許権の保護範囲に当該技術的構成を含むことを主張する場合、人民法院はこれを支持しない。
第6条 特許出願人、特許権者は特許権の付与又は無効審判において、クレーム及び明細書に対する補正或いは意見陳述を行って放棄した技術的構成について、権利者が特許権侵害訴訟においてその放棄した技術的構成を特許権の保護範囲に含ませることを主張する場合、人民法院はこれを支持しない。
第7条 人民法院は、被疑侵害物件の技術的構成が特許権の保護範囲に入るかどうかを判定する時、特許権者が主張するクレームに記載される全構成要件を審理しなければならない。
被疑侵害物件の技術的構成に、クレームに記載の全ての構成要件と同一又は均等の特徴が含まれる場合、人民法院は被疑権利侵害技術的構成が特許の保護範囲に入ると認定しなければならない。被疑侵害物件の技術的構成の構成要件とクレームに記載の全ての構成要件とを比較した際、クレームに記載の一項以上の構成要件が欠ける場合、又は一項以上の構成要件が同一でなく均等でもない場合、人民法院は被疑権利侵害技術的構成が特許権の保護範囲に入らないと判定しなければならない。
第8条 意匠特許権製品と同一または類似する種類の製品において、権利付与された意匠と同一又は類似する意匠を採用した場合、人民法院は被疑侵害設計が特許法第59条第2項に定めた意匠特許権の保護範囲に入る判定しなければならない。
第9条 人民法院は、意匠製品の用途に基づいて製品の種類が同一又は類似するかを判定しなければならない。製品の用途を認定する際に、意匠の簡単な説明、国際意匠分類表、製品の機能及び製品の販売、実際の使用情況などの要素を参考することができる。
第10条 人民法院は意匠特許製品の一般消費者の知識レベル及び認知能力を基準として意匠が同一又は類似であるか否かについて判断しなければならない。
第11条 人民法院は意匠が同一又は類似であるか否かについて判断する時、授権された意匠、被疑侵害設計の設計特徴に基づき、意匠の全体の視覚的効果を以って総合的に判断しなければならない;主に技術的機能によって決めた設計特徴及び全体視覚的効果に対して影響を及ぼさない製品の材料、内部構造等特徴は考慮してはならない。
以下の状況においては、通常、意匠の全体視覚的効果に更に影響を及ぼす:
(一)他の部位より製品の通常使用時に直接的に観察される部位
(二)授権された意匠のその他の設計特徴より授権された意匠が従来設計と区別される設計特徴
被疑侵害意匠と権利付与された意匠に、全体の視覚的効果上に差異がない場合、人民法院は双方が同一と認定しなければならない。全体の視覚的効果上に実質的な差異がなければ、双方が類似と認定しなければならない。
第12条 発明又は実用新案特許権を侵害する製品を部品として、他の製品を製造する場合、人民法院はそれを特許法第11条に定めた使用行為に属すると認定しなければならない。当該他の製品を販売する場合、人民法院はそれを特許法第11条に定めた販売行為に属すると認定しなければならない。
意匠特許権侵害製品を部品とした、他の製品を製造かつ販売する場合、人民法院はそれを特許法第11条に定めた販売行為に属すると認定しなければならない。但し、意匠特許権を侵害する製品が当該他の製品の中に技術機能のみ有する場合は除く。
前記2項に規定された状況に対して、被疑侵害者の間で分業的協力が存在する場合、人民法院は共同侵害と認定しなければならない。
第13条 特許方法によって得られた原始的製品に対して、人民法院は特許法第11条に定めた特許方法によって直接得られた製品であると認定しなければならない。
当該原始的製品を更に加工、処理して得られた後続製品を得る行為に対して、人民法院は特許法第11条に定めた当該特許方法によって直接得られた製品であると認定しなければならない。
第14条 特許権の保護範囲に属する被疑侵害の技術的構成の全ての構成要件と一つの従来の技術的構成の相応する構成要件とが同一又は均等である場合、人民法院は、被疑侵害者の実施した技術が特許法第62条に定めた従来技術と認めなければならない。
被疑侵害の意匠と一つの従来意匠とが同一又は実質的に無差異である場合、人民法院は、被疑侵害者の実施した意匠が特許法第62条に定めた従来意匠であると認めなければならない。
第15条 被疑侵害者が、不法に得られた技術又は意匠によって先使用権の抗弁を主張する場合、人民法院はこれを支持しない。下記の各号に該当するものについては、人民法院は、特許法第69条第(二)号に定めた製造、使用のために必要な準備に属することを認めなければならない。
(一) 発明創造の実施に必要な主な技術図面又は技術文献が既に完成されている場合;
(二) 発明創造の実施に必要な主な設備又は原材料を既に製造又は購入している場合。
特許法第69条第(二)号に規定された「従来の範囲」は、特許出願日前に既に有する生産規模、及び既に有する生産設備の利用、又は既に有する生産準備によって達する生産規模を含む。
先使用権利者が、特許出願日後に既に実施した又は実施に必要な準備をした技術或いは意匠を他人に譲渡又は実施許諾した場合には、被疑侵害者は当該実施行為が従来の範囲以内の継続実施に属すと主張しても、人民法院はこれを支持しない。但し、その技術又は意匠がその企業と一緒に譲渡、又は相続される場合は除く。
第16条 人民法院は、特許法第65条第1項の規定に基づき侵害者が権利侵害によって得た利益を確定する際に、侵害者が権利侵害行為によって得た利益に限らなければならない。他の権利によって生じた利益は合理的に除去しなければならない。
発明、実用新案特許権を侵害している製品が他の製品の部品である場合、人民法院は、当該部品自身の価値及びその部品が完成品の利益における役割などの要因に基づき合理的に賠償額を確定しなければならない。
意匠特許権を侵害する製品が包装物である場合、人民法院は、包装物自身の価値及び包装された製品の利益における役割などの要因に基づき合理的に賠償額を確定しなければならない。
第17条 製品又は製品の技術的構成が特許出願日前に国内外の公衆に知られていた場合、人民法院は、当該製品を特許法第61条1項に定めた新製品に属さないと認定しなければならない
第18条 権利者が他人に対して特許権侵害に関する警告を発し、警告を受けた者又は利害関係人が書面を以って権利者に訴権の行使を催告した場合、権利者は当該書面による催告を受取ってから一ヵ月以内に或いは当該書面の催告を発送した日から二ヶ月以内に、警告の撤回もせず、訴訟の提起もしない場合において、被警告人又は利害関係人が、その行為について、特許権非侵害確認訴訟を提起した場合、人民法院はこれを受理しなければならない。
第19条 特許権被疑侵害行為が、2009年10月1日以前に発生した場合は、改正前の特許法が適用され、2009年10月1日以後に発生した場合は、改正後の特許法が適用される。
被疑侵害行為が2009年10月1日以前に発生し、且つ2009年10月1日以後まで継続し、改正前と改正後の特許法の定めによって、被疑侵害者が損害賠償の責任を負わなければならない場合は、人民法院は改正後の特許法を適用し損害賠償額を確定する。
第20条 本院が以前発表した関連の司法解釈と本解釈と不一致の場合、本解釈を基準とする。